w-a-t-e-r2011/08/14 17:43

 


ポンプからほとばしりでる水を
さしだした手にうけながら
もう片方のてのひらに
w-a-t-e-r
のスペルをきざみつけられたとき
ヘレンは
雷にうたれたようなショックをうけた。
彼女のかわききったこころにおちた
いってきの雨つぶ。
「ことば」
をはじめて得た
その一瞬に
ヘレンは
「世界」を
つまりは
「自己」を
そっくりのみこんだ。

いつもまよっていたみち
それがサリバンによって
魔法のようにひらかれた。
ヘレンは
ひかりさす
「世界」
へのとびらをおしあけた。
自分を
世界へとひらく
魔法のとびらは
「ことば」
だとさとった。

蝶は
「蝶」
の名にはぐくまれ
「蝶」
の名にふくらみ
「蝶」
の名からはばたいて
なつのそらの
はるかなたかみへとまいのぼる。

なのはなは
「なのはな」
の名にめばえ
「なのはな」
の名にさきみち
「なのはな」
の名からこぼれて
みわたすかぎり
きんのひかりを
野になみうたせる

海は
「海」
の名によせかえし
「海」
の名にしおわきたち
「海」
の名からあふれだして
ドウドウと
磯にうなりをうちつける

なまえはなまえでしかなく
ことばはことばでしかないけれど
ぼくのまえに
ぼくのそんざいのありようを
つまりはせかいのありようを
つまびらかにしてくれるものは
やっぱりことばしかない。

名がものをしばりつけようとするほど
ものは名をすりぬけ
逸脱して名をとまどわせる。
両者のたゆまぬせめぎあいのうえに
一語のことばはいきている。
そこはまさに
「世界」

「自己」
との
めまぐるしい往還の場。

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