嫁姑2012/10/01 16:30

ことしの夏
81になるおやじが入院した。
それでおれは
嫁をつれて帰省することにした。
結婚して2年
おれは
なるべく、嫁とおふくろとを
接近させないよう
気をつかってきた。
なにしろおれのおふくろときたら
国道をうんてんちゅう
ひだり車線からいきなり
右折しようとして
うしろからきた軽自動車を
横転させた経歴のもちぬしで
しかもいっさい
じぶんの非をみとめず
「わたしはわるくない」
で検分もおしとおした女だ。
一事が万事で
いつもまわりはふりまわされ
しんけいをすりへらすことになるのだ。
また、幸か不幸か
このおふくろ
生まれもって強運で
くだんの軽乗用車も
いったんよこだおしになったものの
中央分離帯の植木にはねかえされ
ひょっこりおきあがり
車両は廃車ながらも
運転手のわかいおんなのひとは
かすりきず程度ですんでしまった。
おかげで猛省をうながす周囲のこえも
いまひとつ
はがゆさをのこすところとなった。
いっぽう嫁のほうはといえば
運命のいたずらか
いや、
のがれがたく心身に刻印される
親子の因縁によるものか、
遠ざければ遠ざけるほど
四肢はからめとられるおぞましい蜘蛛の罠の
まんまんなか
おれはまんまとおちた。
おふくろとこれまたそっくりの
業ふかき女。
ならびたつはずのない
きょうれつな磁気をおびた二物が
おれをはさんで
対峙している。
宇宙がゆがんでみえたのもなっとくがゆく。
平和のため
おれにできることといえば
両者をなるべくちかずけないことだけだ。

実家に到着すると
さっそくおふくろが
あれもこれもと
嫁の口へ強引に食い物をおしこんでいる。
さほどハラのへっていない嫁は
すぐに音をあげ
「もう胸やけがするので…」
としりぞけようとする。
が、そんなことにはおかまいなしに
おふくろはこんどは嫁に
センベイのふくろをさしだす。
「ちょっと気もちがわるいので…」
嫁が必死にこばむ。
おふくろのことばがとまった。
おふくろはうつむき
だまってセンベイのふくろをやぶる。
そうしてセンベイをいちまいとりだすと
むねのまえではんぶんにわる
はんぶんをじぶんのくちに
もうはんぶんを嫁の手に。
ふたりはぼりぼりと
無言でセンベイをかじっている。

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