ほたる2012/07/09 18:10



きみが
まだほたるをみたことがないって
いつかいってたのをおもいだして
もうシーズンもおわりかけていたけど
ぼくは
なかば強引にきみをさそい
車を駆り
山をわけいり
とある清流をおとずれた。
日暮れをまって
ぼくたちはほたるをさがしに
流れをめぐった。
けれどあいにくその夜は
肌ざむいほどの気温で
とてもほたるになんか
お目にかかれるとはおもえなかった。
ふたりはしだいに無口になっていった。
山からおりてくる
狂暴な闇に
おしつぶされそうだった。

「かえろうか…」
ぼくがいった。
川ぞいのみちを
おもたいあしをひきずりながらあるいた。
しばらくして
きみのすがたがないことにぼくはきづいた。
「どうかしたの?」
ぼくはさけんだ。

「シーッ、ひかってる…」
下からきみの声がした。
みるとたしかに
ひとつだけ
あおいちいさなひかりが
ゆっくりと明滅をくりかえしながら
闇をのぼってゆく…
「とんでるほたる、はじめてみた…」
きみがぽつりといった。

とおい闇のはてに
没してみえなくなるまで
ぼくたちはじっと
そのしずかなひかりの明滅を
みおくった。